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行き交う車の音、公園で遊ぶ子供の声、お店の入り口のベルの音、信号待ちをしている人の話し声。
僕はいつも、この交差点で風船を見ている。
その風船は首にかけられていて、大きさも、色も、たくさんある。
あのお爺さんは、中くらいの風船。
あの髪の長い女の人は、小さい風船。
あの髪の短い女の子は、大きい風船。
今お店から出てきた男の人は、女の子の風船よりも少しだけ小さい風船。
どうして首に風船をかけているのか、どうして色んな大きさがあるのか、どうしてみんな色が違うのか、気になって声をかけても、誰も答えてくれない。
僕の声が小さいから、聞こえないのかな?
さっきまで公園で遊んでいた、大きい風船を首にかけた髪の短い女の子が、猫を追いかけて道路の方へ走って行った。
その先に、車が走ってくるのが見えた。
『危ないよ!』
僕は声を出したけど、女の子が振り向く事はなかった。
怖くなって、僕は女の子から目を逸らした。
何か、気味の悪い音の後、車の急ブレーキをかける音が聞こえる。
ざわざわと騒がしくなってくる。
顔を上げると、たくさんの人で女の子も車もみえなかった。
女の子の姿は見えないけど、その子の風船は空へと昇っていった。
僕は何が起こったのか、どうなったのか分からなくて、目があった女の人に聞いた。
女の人は『女の子が車に轢かれて死んだのよ』と教えてくれた。
また、声が届かなかった。
結構大きい声を出したつもりだったんだけどなあ。
何でかなあ、と考えながら上を向くと、女の子の風船が、遥か遠く、高い高い場所で、じわりじわりと消えていくのが見えた。
少し先で、あの女の人も上を見ている。
僕は気付いた。
今まではただ、道行く人の風船を眺めているだけだったけど、もしかしたら、あれは命の風船なのかも。
そしたら大きい風船を首にかけている人に、気を付けてって教えて上げられる。
だんだんと人が少なくなっていって、さっきの女の人が僕の横を通り過ぎる時、僕はその人に声をかけた。
振り返る女の人に、この人には僕の声が届くんだ、と嬉しくなった。
風船が見えるか聞くと、女の人は『見えるわ。普通の人には見えないかもしれないけれど』と応えた。
普通の人、というのが気になったけど、女の人は流れる人の波に紛れ消えてしまっていた。
そういえば、僕の風船はどれくらい大きいんだろう。
少し怖いけど、気になった僕は上を見た。
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