ちいちゃん

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ちいちゃん

実家に帰ったおりに、押し入れを掃除した。 埃っぽい段ボールを掻き分けた奥から、汚れた抱き人形が出てきた。 懐かしいな。 私の口元はほころんだ。 丸いおめめと、ちょんと尖った口。 ぷっくりした赤ちゃんのほっぺが可愛らしかった。 小さい頃はいつも一緒にいた。 抱っこをしたり、ミルクをあげたり、お風呂に入れたり。 友達と公園で遊ぶときにも連れて行った。 ある時、ちいちゃんと遊んでいるのを近所の男の子たちに見られた事があった。 男の子たちは、人形遊びなんてだっせえ、と言い、酷く笑った。 途端に恥ずかしくなった私は、 ちいちゃんを川に捨てたのだった。 ちいちゃんは何故、今ここにいるのだろう。 じっと手のなかの人形を見る。 薄汚れた抱き人形は、表情なくこちらを見返していた。
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