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母の美幸と手を繋ぎ、袴田明香里は、夜道を歩いていた。
近付くにつれて大きくなっていくお囃子の音は、境内の神楽殿での奉納だ。さらに人々の喧騒も聞こえてくる。日頃、周辺は静かなものだが、例大祭の前、三日からは賑やかになる。
いつもは薄暗い通りも、とても明るいと判った。毎年の事だけに、脳裏に様々の事が思い出される。
冷たく甘いかき氷、たこ焼きや焼きそばのソースが焦げた匂い、子供がたくさん集まる金魚すくいは見目に涼しい、そしてひょろひょろと変な音を立てる水笛──今年は何をして楽しもうか。歩く足が早まるのを感じていた。
歩いてきた道を、右に折れると、途端に祭りの活気が満ち溢れる。
法被姿の男女が酔った様子で騒いでいた、注文を受ける屋台の店員の怒声にも似た声が響く。
まずは氏神様に挨拶を済ませて、背後を見る。五十センチほどだが高台となる境内から見ると、人の頭しか見えない状態だ。
鳥居を抜けて人ごみに入る前に、美幸は明香里の手を握り直した。そして屋台が見えるよう、なるべく端を歩き始める。
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