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「ありがと。でもさすがに着てみたらやっぱり小さいのは判ったみたい。来年は買い換える気になってくれたわ」
「今度は、自分のは買わないように」
「おや、魂胆がバレバレですか」
母親同士が話している間に輪投げは終わり、そこで別れを告げた。
「あっちゃーん」
歩き出すとまた別のところから声がかかった、今度はクラスメートの戸田一樹だった。
互いに挨拶をして、母親同士は時候の言葉を交わす。そして学校の様子などを話しているうちに、大きな歓声が聞こえた。そちらを見ると射的の屋台だった、女性店員が笑顔で手を叩き、男性客はガッツポーズを決めている。
「すげえ!」
戸田一樹が声を上げた、まず落ちないであろう、ゲームソフトを撃ち落としたようだ。
「あれ、落ちるんだな!」
「うん、すごいね!」
そこへ戸田一樹の友人が通りかかり、やはりそれの話題で盛り上がった。その友人が去り、戸田一樹も別れを告げる。自分も手を繋いで歩き出そうとすると──。
「え?」
頭上の声に、明香里は顔を上げる。美幸よりもはるかに若い女と手を繋いでいた。
「──え?」
明香里が手を離すと女は怪訝そうな顔で去っていく、明香里は一人残された。
「……お母さん……?」
辺りを見回したが、見えるのは人々の背中とお腹ばかりだった。
「おか……!」
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