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兄貴すら『世の中には説明できない不思議な事もある』だなんて口から漏らしやがった。こんな子どもにびびってるなんざ、情けなくて反吐がでそうだ。
舞香は教えられたとおり、ガラスパイプの下にライターを構えて火を点し溶かしていく。
と、その時、事務所の扉が開くとスキンヘッドの男が事務所内に入ってきた。
「おい、兄弟。親父が呼んでる。お前も連れて二人で来いってさ」
「はっ、俺も、ですか? 用があんなら俺に直接電話くれりゃいいのに、どうしてオヤジ、兄貴にだけ連絡寄越したんですかね」
「俺が知るかってんだ。つーか舞香ちゃん、こんな時間にこんな場所でなにやって……おい、兄弟?」
男は急に声のトーンを落とすと、大海の襟首を掴み上げ顔を凄めた。
「てめぇ、舞香ちゃんになにやらせてやがんだ? なぁオイ?」
「い、いや、売人してんのにシャブやったことがないっつーんで……あっ、舞香ちゃん、もう吸っていい頃合いだ」
大海に言われたとおり、舞香は気化して白煙となったそれを吸い込んでまう。
「兄弟、俺が覚醒剤でどうなったか知ってるよな? 一番間近で見てきたよな、ああ!?」
襟首を掴む力を強めた男は、そのまま大海を突き飛ばして地面に叩きつけた。
「ふざけてんのかてめぇ。俺があれだけ狂ってたのをあーんなに近くで見ておきながら、仲間にやらせてどうするつもりだ、ええっ!?」
「いや、あれは兄貴の使い方のせいであって普通はああはなりませーー 」
「んなこたぁ聞いてねぇ! 俺のこと舐めてんのか、おい? 漬ける相手間違えてんじゃねぇぞクソ野郎ッ!」
男はそう言い終えると、舞香に顔を向けた。
「舞香ちゃん、シャブだけはやめとけ」
「あ、阿瀬さん、こんばんは。お久しぶりですね。でも、案外拍子抜けでしたよ、これ。“ああ、こんな程度の物なのかー”って感じですよ。たしかに目は冴えましたけど」
「最初は誰もがそう思うんだ。舞香ちゃんなら変な野郎に漬けられたりはしないだろうけどよ、もうそれはやめときな。ぜったい、後悔するから。やるならせいぜい葉っぱくらいにしとけ」
阿瀬が舞香に忠告するのを聞きながら、大海はゆっくりと立ち上がった。
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