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「別に漬ける気なんてさらさら考えちゃいませんよ。だいたい、まえから気になってたんすけど、どうしてこんな子供がうちや兄貴んとこに出入りしているんですか? 兄貴が連れてきた日なんて俺、てっきり漬けて風呂屋にでも落とすのかなって思っちまいましたよ」
「相変わらずオツムが足りてねぇバカ野郎だなぁおまえ。もしそうするんだったら漬けてから連れてくるに決まってんだろ、成長しねぇクソ野郎だな本当によ」
「バカだのクソだの好き放題言ってくれますね? ……なら、俺だって言わせてもらいますよ? 兄貴も舎弟のヤツらも、どうしてこんな子供相手にイモ引いてんですか? ーー任侠の世界に、こんな女子ども連れてきたうえなにビビってやがんだって聞いてんだよっ」
流石に頭にきたらしく、大海は兄貴分であるにも関わらず喧嘩腰で阿瀬に追求する。
途端に部屋の空気が嫌な感じで満たされていく。
それが気に入らないと考えたのか、舞香は立ち上がった。
「まあまあお二人さん、少し落ち着きましょうよ」
舞香はピリピリしている極道の人間二人のあいだに割って入ったのだった。
すると、予想に反して阿瀬は一歩足を退いた。
「……舞香ちゃんに免じて今のは聞かなかった事にしてやる。舞香ちゃんに感謝しとけ」阿瀬は鞄を置き財布をポケットに仕舞う。「おら、さっさとオヤジんとこ行かねーと殴られちまうぞ兄弟っ」
舞香の言葉に従う阿瀬を見て、大海は驚きと失望を隠せない。
ーーなんだなんだ、いったい何なんだ?
ーーこのお嬢ちゃん、親父の知り合いか何かなのか?
ーーんな話、聞いたこたぁねぇぞ。
大海が渡したパケを、阿瀬は舞香の手から摘まみ上げた。
「売る覚醒剤はまだ自宅にあるよな?」
舞香がそれに対して頷くのを確認すると、阿瀬はつづけた。
「なら、こいつはここに置いて帰りな。こんなビルから舞香ちゃんみたいな可愛らしいお嬢ちゃんが出てきたら、怪しく思われるに違いねぇ。万が一にでも職質かけられたら寒いだろ、な?」
「まあ私の場合、なにかあっても逃げられる自信がありますけどね。99.9%くらいの確率で」
舞香は、まるで逃亡率100%だとでも言いたいような、自信満々といった表情を浮かべながら宣う。
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