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「……それもそうだったな。悪い、要らねぇ心配か。とにかく、シャブは売りに専念して自分ではやらねぇようにしとけよ? 『お金稼ぎに覚醒剤を売っていた』はずが、いつの間にか『覚醒剤やるためのお金を稼ぐために覚醒剤を売っている』になっちまうから」
そのやり取りを無言で眺めていた大海は、ひとつ疑問を抱いた。
ーーなにがあっても逃げられる……だと?
「兄貴、ちょいといいかい。俺らだって捕まるときは捕まるんだ。デコ助は舐めちゃいけねぇんじゃないか。そんな事、十割逃げ切れる策があるんだってんなら俺が知りてぇよ」
大海に疑問をぶつけられた阿瀬は、なにかを言いかけ、それをやめて舞香に視線を戻す。
「……舞香ちゃん、いいかい?」
阿瀬は舞香になにかを問う。
舞香が頷くのを確認すると、阿瀬は大海の方へ視線を移した。
「異能力者……って知ってるよな?」
「異能力者? ああ、あの都市伝説みたいな与太話ですか。知ってますぜ? なんと、スプーンを種なしで曲げたりできるとかいう超能力者がいるんだって」
噂だけなら、大海も耳にしたことがある。
異能力者というのは、文字どおり常人では普通不可能な一般市民とは異なる能力を扱える者のことだ。
スプーンを曲げるのはもちろん。火の玉を出したり、空を飛んだりーーようするに超能力染みたことができる人間、それが10年前辺りから姿を現したのだという噂が、どこからともなく流れてきていた。
「兄貴は俺がそんな与太話、信じるって思ってんですかい」
「まっ、そりゃそうなるよな。俺だってそんな話、最初は信じちゃいなかったさ。だけどな、いるんだ。たしかに異能力者はいるんだよ。物理法則も固定概念も何もかもを無視した『超能力』が与えられた人間、異能力者はたしかに存在するんだ。少なくとも、一人は確実にな?」
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