死守

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 『守る』という行為は、必ずしも対象の側にいる必要はない。 危害を加えてくるものが近くに存在するとは限らないからだ。    例えば、地中深くから襲ってくるかもしれないし、天空から降ってくるかもしれない。 目に見えないかもしれないし、昨日まで味方だった者かもしれない。 無知な僕には想像もつかない方法だってあるだろう。 どこから来るかもわからないような外敵から守るためには、待ち受けていてはいけない。 誰かが鳴らすサイレンを待つべきではない。 こちらから駆除しに行くべきなのだ。 駆除せねばならぬ。  僕が守りたいと願う彼女は、僕を腕の中に収めて泣いている。 この子はこんなに力が強かったのか。 ずっと顔を僕の身体にうずめて唸って…壊れてしまったのだろうか。 見ていられない。 見ていてはいけない。 腰に巻かれた柔らかな鎖を引きちぎって、彼女から離れる。 2mほどの距離ができた。 世界一遠い2mだと思った。 余計なことを考えるな。これからの自分に邪魔だ。 昨日までの僕は死んでしまったのだ。もう君にどうにかしてやれる資格はない。 鬼か、死神か、それに属するものに成り果てたから。 僕は、深々と一礼した。 これで充分なのだ。 後のことは誰かが代わりにやってくれる。 僕より優しい、誰かが。    僕は戦地へ歩き出す。    きっと遠いのだろう。     遠ければ遠いほど、良い。
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