19人が本棚に入れています
本棚に追加
田之上先輩を好きになったのは高校の合格発表の時、
少し校内が気になって春休みで誰もいないのをいいことにこっそり見て回ってたんだけど
ふと、体育館の方から音が聞こえて……
中をそぉーっと覗いて見たら田之上先輩が一人でバスケのゴールに向かってシュートの練習をしていた。
何度も何度もボールを放ってそしてそのボールは全て
綺麗な放物線を描いてゴールネットに吸い込まれて行く。
シュッと風を切るような音とともに。
わぁ……すごい。
ゴールを真っ直ぐに見つめる目は真剣そのもので真っ黒なストレートで少し長めの前髪が時折、体育館に抜ける春の風に揺らされていた。
その姿は美しくて…あまりにもの格好よさに暫く見とれていると
ガンッと入りそこねたボールがゴールに当たって跳ねて私の足元へと転がってきた。
体育館の床をトントントン…と跳ねてこちらに転がってくる。
ど、どうしよう……。
拾って渡した方が良いよね?
だけど、勝手に校舎内に入って見てた訳だし。
「おい、突っ立ってねぇで。ボールこっちに寄越せよ。」
初めて聞いた先輩の声は怒っているようで怖かった。
「ススススススイマセンッ。タダチニ!」
急いで拾ってボールを先輩のところまで持って行こうとしたら
「おい、ここに土足で入るんじゃねぇよ。」
さらに叱られた。
「あっ、はいっ、すすすいません。ごめんなさい。もうしません。きゃっ。」
慌てて靴を脱ぎ体育館へ足を踏み入れたんだけど絡まってしまって見事に転けた。
「あいたたた…」
痛さのあまり動けないでいると
「クックックッ…。お前、おもしれぇ。」
蛙のようにペシャっと倒れてしまった私。
恐る恐る顔を上げると先輩は何とも言えない優しい笑顔で手を差し出してくれていた。
「ほら、つかまれ。」
この時から、私の心は先輩へと真っ直ぐに動き出した。
最初のコメントを投稿しよう!