トラウマ

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「いッ」 声にならない声をあげ、わたしは床にうずくまる。 つまらない思い出を振り返ってしまったのは、床にばら撒いてしまったポテチの袋が、あの時のポップコーンのパッケージと似ていたからだろうか。はたまた話題のイケメン俳優がバラエティ番組で恋愛映画の告知をしていたからだろうか。 ベットの角に小指をぶつけ、1人無様に倒れこんだ自分に虚しくなった。 30秒ほど倒れていたが、心配して起こしてくれる人もいないので、「あぁ~あ、一口しか食べてないのにもったいない」と自分に掛け声をかけ起き上がる。一枚拾って食べて、残りは捨てた。 思えば元彼とは趣味が全然合わなかった。 笑いのツボも違ったし。 そもそもわたしは邦画派だし。 彼はアウトドア私はインドア。 お互いの生活環境や価値観もまるで違っていた。 しかし、付き合いたての頃はそれでも楽しかったのだ。 全然違うタイプというのが逆に面白くて、 彼が話す言葉一つ一つにわくわくし、 得意のうんちくだって恋は盲目、博識でかっこいいなんて思っていた。 「二日酔いなった時はさ、ラムネを食べたらいいんだよ。」 前日会社の飲み会だったという彼は具合が悪いという日でもうんちくが止まらなかった。 「ラムネ?お菓子の?」 具合が悪いなら話さなければいいのにと思いながら わたしは運転する彼の横顔を見ていた。 「そうそう。ラムネは主成分ブドウ糖で出来てるから、二日酔いになった時は疲労を回復してくれるから頭がすっきりするんだ。」 「そうなんだぁ、えーこんどやってみよう。」 でもその楽しさは長くは続かなかった。 楽しくしていた会話も噛み合わなくなり、お互いに合わせることに疲れ、その内ケンカの回数が増え、口数が減って言った。 別れを切り出したのは私からだが、彼もすんなり受け入れたので、お互いにもう限界だったのだろう。 「掃除機かけなきゃ。・・・・・・めんどくさ」 床に散らばったポテチの塊が、実家で飼っている柴犬の横顔に見えた。 独身、彼氏なし。 有賀 沙耶(アリガ サヤ)29歳の誕生日の朝である。
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