閃光の人

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閃光の人

マンションのエレベーターから降り、エントランスを通ると管理人の高見野(タカミノ)さんが顔を覗かせた。 「おはようございます有賀さん。今日はお休み?」 にっこりと微笑む高見野さんは住民のポストに『ゴミの分別のお知らせ』と書かれた黄色い紙を入れていた。 高見野さんは最近腰が曲がってきていて、背筋を伸ばして顔をしかめている姿をたまに見かける。 「おはようございます高見野さん。 はい、今日は休みです。天気がいいから布団洗いに行こうかと。あれ?今日はバイトの方、いらっしゃらないんですか?」 「バイトの方?」 高見野さんは小首を傾げて緩く束ねた白髪を揺らした。綺麗なシルバーだ。 「あぁ、警備の田中くんね! そうなのよ。田中くん、実家のお父様が倒れたらしくてねぇ、家業を継がないといけないとかでね?先週で辞めることになったのよ。」 「あの子、警備だったんだ。」 先週までいた警備の田中くんは、いつもエントランス脇の受付のパイプ椅子にだらしなく腰掛け、つまらなそうに監視カメラのモニターを眺めていた。 たまにエントランスの掃除をしていて 「はよーございあーす」という投げやりな挨拶しか声を聞いた事はなかった。 私がバイトだと思っていたのは、彼がいつも白いパーカーにジーンズという、ラフな格好をしていたからだ。 「田中くんね、寡黙だったけど、いい子だったのよ?うちで頼んでいたのは見回りとかのお仕事だけだったのに、お掃除してくれたりね。 こういうお知らせの、ポップっていうの?チラシを作ってくれたり。愛想はないけど、気の利くいい子だったのよ。」 高見野さんはにこにこしながら田中くんを褒めた。おしゃべり好きで、こういう話をすると止まらなくなる。 早く布団を洗ってしまいたかった私は外をちらりと見ながら、田中くんの顔を思い出そうとするが、うまく浮かばなかった。ただ、少しハスキーな青年らしい声だったことは覚えていた。
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