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——カンッ!
木槍の先端同士が激しくぶつかる音が響く。
——カッ! カンッ!
それは、そよ吹く夕風を一閃で薙ぎ切る鋭利な音。
「うっ!」
流麗な動きから繰り出された力強くも的確な打ち込みの衝撃は凄まじく、気づけば僕の木槍は勢いよく跳ね上げられていた。
渾身の力を込めて突き出したはずであるのに、手から離れた木槍は素早く回転しながら宙を飛び、半月を描いて背後に転がっていった。
「……っ、つぅ……」
お師匠様の一撃を受け止めた手首に力が入らない。肘までの筋が、じんじんと痺れているのだ。なんという振り抜きの速さ、凄まじさだろう。
「よし。今日は、ここまでにしておこう」
「はい。ご指南、ありがとうございました」
お役目で多忙な師匠だが、三日ぶりの稽古ということで、今日は剣術と槍術の両方に時間を割いてくださった。とても、ありがたい。
「おい、十蔵。ちょっと、こっちへ来い」
「はい」
常ならば、稽古の終了を告げられた後は木刀での素振りの回数を言い渡される。しかし、今日はそれがない。
挨拶をしたのち、僕よりも頭ひとつぶんは背丈のある体躯の持ち主を訝しく見つめれば、僕が手にした木槍にちらりと視線をやった相手に木陰に誘われた。
「手ぇ、出せ。左手だ」
「……」
「チッ。やっぱりか。この馬鹿野郎が」
言われるまま、無言で左手を差し出した途端、相手の人相が変わった。至極、凶悪なものに。
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