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「手のひらの肉刺(まめ)が潰れてるぞ。お前、俺が言いつけた素振りの回数、守ってねぇな?」 「……」 「黙ってねぇで答えろ。俺は、その日の稽古の内容で回数を決めてるんだぞ。お前、昨日の素振りの回数、言ってみろ」 「五百回、です」  一瞬、答えるのを躊躇したが、お師匠様の厳しい目線ですぐに観念した。きっともう全て見抜かれているに違いないのだから、正直に答える他ない。 「はあぁ……お前なぁ……俺がお前に課した回数は、二百回だぞ。しれっと倍以上、やってんじゃねぇよ。馬鹿たれ」 「申し訳、ありません」  額に手をやり、首を振りながら「この阿呆が。本当に馬鹿野郎だ」ともう二回、追加で言われたことで、自分がこの人をひどく呆れさせたのだとわかった。  けれど、やらずにはいられなかったのだ。 「お前。何を焦ってる? 確かに、初心者のうちは手に作った肉刺(まめ)なんて潰れてなんぼだが。お前の上達ぶりからしたら、そんな無茶、今は必要ねぇだろ」  ——何を焦っているのか。  眉間にしわを寄せて発せられたその問いかけに、ぴくりと肩が動いた。  そうだ。その通り。僕は、焦っている。  だが、その〝焦りの理由〟を、お師匠様に話すわけにはいかない。この人にだけは言えない。
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