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——ひゅうぅ
風が、吹き抜けていった。足元から巻き上げるかのような速い風だ。
その風に誘われるように顔の向きを変えれば、御殿からこちらへと向かってこられている原田様のお姿が目に入った。
紺色の小袖に、藍鼠色の袴。明るい紺に渋みのある鼠色の組み合わせが、華やかな容姿の原田様によく似合っておられる。
しかし、こちらへと歩んでおられるそのお姿は、昨日まで見知っていたものとは激変しているのだ。
「まだ、見慣れないな」
髷を結わずに、後頭部で無造作に束ねていただけのその人の髪が、肩までの短さに変わっていることに。
吹きつける夕刻の風に大きく髪をなびかせている端整な面立ちの持ち主は、今朝、断髪なされていたのだ。
稽古のためにこちらに出向いた、数刻前の衝撃を思い出す。
驚いた。本当に。同時に、目の前が真っ暗になった。〝その時〟が、とうとうやってきたのだと知ったから。
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