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「おら、手ぇ出せ」
僕のもとに戻られて開口一番、低い声で命じられる。僕の返事を待たずに左手が持ち上げられた。肉刺が潰れたほうの手だ。
「ちゃんと、手のひら広げとけよ」
間を置かず、手にした瓢箪を傾けたお師匠様によって、僕の手のひらへと水がかけられていく。
「……ぅ、っ」
最初は、勢いよく。しかし、僕が眉をしかめたのを見て、ちょろちょろと細長く垂らすやり方に変わった。
「少しだけ我慢しろ」
そうして、瓢箪の中身が空になってから、肉刺の周囲を丁寧に拭われた。どう見ても、おろしたての手拭いで。
「汚れは取れたようだな。よし、そのまま指を広げとけ。薬、塗ってやる」
傷口の検分が終わり、ひとつ頷いた原田様が次に袂から出したのは、蛤の貝殻。
「あ……」
もしかして、と思った。
「うわっ、臭っ! なんだ、この臭さは!」
やっぱり。
「うおぅ! くっせーっ!」
息を止めてから指につけるのですよ、と助言する前に、惨事が起きてしまった。
一般に使用される、浅蜊ではなく蛤の容器だったことに、『もしかして』と思ったのに。真剣なご尊顔を、つい、じっと見てしまい、声かけが遅れてしまった。
原田様が指で掬って悶絶されているこの塗り薬は、確かに効き目は抜群。僕もよく存じ上げているお医者様が作られた、どんな傷にも効く万能薬だが、ひとつだけ難点がある。
「うっ、うおっ! くっせーっ!」
とんでもない悪臭を放つ代物だということだ。
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