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「十蔵」
「はい」
じっと見つめられ、名が呼ばれる。
「お前に、言っておくことがある」
まだ、手は離れない。
「大事なことだ」
「はい」
なんだろう。
原田様の目線が、僕の左手に向いた。掴まれた左手に、原田様の反対側の手が乗る。
手ずから巻いてくださった晒木綿の上を、その指がすうっと辿った。
「あまり、気負うな」
え……。
「お前は、誰よりも頑張っている。努力家で勤勉で、上を目指すための厳しい鍛錬を厭わない。俺は、そんなお前が可愛くて仕方ない」
「……っ」
「だが、努力家で真面目なぶん、それが裏目に出るんだ。時折、頑張りすぎて自分を変に追い込んでもいる。そんなお前のことが、心配で堪らない」
「原田様……」
「だから、俺は戻ってくる」
あ……。
「出陣しても。そのまま各地を転戦することになっても。必ず、半人前の弟子に稽古をつけに戻ってくるから、安心して待ってろ」
「……っ、原田様っ」
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