5/9
57人が本棚に入れています
本棚に追加
/42ページ
「十蔵」 「はい」  じっと見つめられ、名が呼ばれる。 「お前に、言っておくことがある」  まだ、手は離れない。 「大事なことだ」 「はい」  なんだろう。  原田様の目線が、僕の左手に向いた。掴まれた左手に、原田様の反対側の手が乗る。  手ずから巻いてくださった晒木綿(さらしもめん)の上を、その指がすうっと辿った。 「あまり、気負うな」  え……。 「お前は、誰よりも頑張っている。努力家で勤勉で、上を目指すための厳しい鍛錬を厭わない。俺は、そんなお前が可愛くて仕方ない」 「……っ」 「だが、努力家で真面目なぶん、それが裏目に出るんだ。時折、頑張りすぎて自分を変に追い込んでもいる。そんなお前のことが、心配で堪らない」 「原田様……」 「だから、俺は戻ってくる」  あ……。 「出陣しても。そのまま各地を転戦することになっても。必ず、半人前の弟子に稽古をつけに戻ってくるから、安心して待ってろ」 「……っ、原田様っ」
/42ページ

最初のコメントを投稿しよう!