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「あ? 強くなりたい? 剣士として?」  けれど、一度、光を見てしまったら、もう止まれない。  初めての邂逅の翌日。僕は、品川へと再び出向いていた。 「『縁があったら、また会おう』とは言ったが、昨日の今日で早速会いに来て、開口一番にそれかよ。この俺に、剣を習いたいってか?」  中間(ちゅうげん)として勤めている御屋敷でも剣の稽古は積んでいるが、昨日のこの人の言葉で未来に希望が見えたのだ。  初めて、自らの未来に光を見た。  二度と後悔の涙を流さなくて済むよう、同じ痛みを持つこの人から剣技を習得したい。そう、心を尽くして伝えた。 「ふっ、そういうことか。いいぜ。俺は、(じき)に品川を出る。江戸に入ったら一番にお前のところに使いを出そう。隊士としての役目の合間になら、幾らでも稽古をつけてやる。それでいいか? 十蔵」 「はい! ありがとうございます! 不束者ではございますが、ご指南よろしくお願いいたします。お師匠様」  僕が必死になって伸ばした手は、こうして掬い上げていただけた。  ——大切な者を護りたい。  ただ、それだけを念頭に闇雲にもがいていた自分に、初めて『未来への光』を見せてくれた人。  新選組十番隊、組長。原田左之助様。  血と死のにおいを纏わせた危険な剣士を師と仰ぐことを許された、この瞬間。 『護りたい者を護れなかった後悔を、今を生きている者のために使う力に変える』  原田様がおっしゃった言葉の、(まこと)の意味を理解できた気がした。
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