57人が本棚に入れています
本棚に追加
/42ページ
男は、他の指揮官たちとともにすぐに江戸へ発たねばならない立場であったにもかかわらず、数日、品川宿にとどまっているという。自分の指揮のもとで戦い、傷ついた隊士たちを言葉ひとつで医師に預けて旅立つことがどうしても出来なかったのだそうだ。
僕の胸に常にある、〝護りたい者を護れなかった後悔〟。それと同じ悔やみに苦しむ様子をまざまざと見せられた。
尚且つ、後悔を無駄にしない前向きで真摯な言葉で、男はずしりと重い感銘を僕に与えたのだ。
『護りたい者を護れなかった後悔を、今を生きている者のために使う力に変えるべきだ』
この人は、今、そう言った。
ならば、僕にも出来るだろうか。
自分の不甲斐なさに唇を噛み切るほどに慟哭した、あの日の悔恨。忘れようにも忘れられない、己の無力さ故に亡くした者への激情を昇華し、未来に繋げられるだろうか。
二度と同じ後悔をしないため、がむしゃらに鍛錬を積むことしか目標がなかった自分が、それをすることが本当に出来るのだろうか。こんな僕が……。
最初のコメントを投稿しよう!