のばらとうらら 第4章
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のばらとうらら 第4章

アランからのメールは、日本に来る時に何か欲しいものはないかを 尋ねる他愛のない内容のものだった。 徹は、結婚当初はよく出張土産など買ってきてくれたりしたが、 段々面倒になったのか、最近では何も買ってくることはなくなっていた。 もっとドキドキするようなメールなのかと期待していただけに、 少しがっかりしながらも メールの返事には『何もいらないから、身ひとつで来て』と打ってみた。 LINEやチャットなら、すぐに返事が来るのかもしれないけど、 時差もあるし、しばらく返事は来ないだろうと思い、 パソコンの電源を切った。 その時、自宅の電話が鳴った。 通いのお手伝いのロミさんが、電話を取ってくれた。 「奥様、大和川さくら様という方から、お電話でございます。」 大和川さくらは、うららとのばらの幼なじみで、 中学生の頃までは、よく一緒に遊んでいたのだが、 中学3年生の時に、父親の仕事の関係で、 九州に引っ越してしまったのだった。 その後、連絡を取り合うこともなかったのだが、 のばらから、九州で結構有名なロックシンガーになってるらしいと 噂に聞いていた。 甘えた感じのしゃべり方で、少しハスキーな声は、 あの頃とあまり変わらなかった。 「さくら!わぁ~お久しぶり!びっくりしたわ!一体どうなさったの?」 「どうなさったのって相変わらずなしゃべり方ね。 今ね、あたし東京に来てるの。今週末にロックの祭典があるんだけど、そこに急きょ出演することになってね。 のばらとフェイスブックで繋がったから、うららの電話番号を聞いたのよ。」 是非うららにも聴きに来てもらいたいと思って。」 うららは、ジャズは好きだが、ロックにはあまり興味が無かった。 でも幼なじみのさくらがどうなっているのか知りたかったし、 会ってみたかった。 「いつあるの?」 「明日なのよ。急で申し訳ないんだけど、 あたし、東京にあまり知り合いもいないし、 ちょっと心細いから、もし都合合えば来てもらえたら嬉しいんだけど。」 明日は、土曜日か・・ 特に予定は無かった。 「いいわよ。さくらにも会いたいし、のばらを誘って行くわ。」 「ありがとう!嬉しい!のばらは、来てくれるって!」 「あら、そうなのね。では詳しいことは、のばらに聞いたらいいのね。」 「じゃ、明日ステージの後、楽屋に是非来てね! 会えるの楽しみにしてるわ!」 突然のさくらの電話に、しばらく呆然としていた。 そういえば、さくらは昔からいつも突然だったっけ。 彼氏が出来たのを聞いたのも突然だったし、 転勤で引っ越しが決まったことを告げられたのも 突然だった。 もう何年も、うららの中にさくらの存在は無かったのだが、 この突然の電話で、急に色々な事を思い出してきて、 そんなさくらがどんな人になってるのか、とても興味があった。 きっとさくらもそう思ってるに違いない。 すると、今度は携帯電話が鳴った。 のばらからだった。 「うらら?今、さくらから電話あったでしょ?明日大丈夫?」 「ええ、大丈夫よ。どんなお洋服を着ていこうかしら~」 「うらら、ロックのコンサートなんだから、ジーンズとかでいいのよ。」 「あら、そう。じゃカジュアルウエアでいいのね。」 「そうよ。じゃ明日、昼過ぎに迎えに行くわ。」 「あら、私ったら何時からあるのか時間を聞いてなかったわ。」 「私がちゃんと場所も時間も聞いてるから、大丈夫よ。」 「ありがとう。じゃ明日よろしくね。」 子供の頃から会ってなかったけど、 こうやって連絡してくれるのは嬉しいものだ。 徹は海外出張中だけど、特に予定を入れてなくて良かった。 さくらは、フェイスブックは昔の知人を探すのは便利だとを言っていたけど 本当だと思った。 世界中の人と繋がることが出来るのなら、 やってみてもいいかと思ったりもした。 アランとメールじゃなくて 、フェイスブックでやりとりしたら便利かもしれない。 でもやり方がよくわからないので、明日のばらに聞いてみよう。 翌日の昼過ぎに、のばらがやって来た。 のばらは、白いシャツにブルージーンズという、 とてもカジュアルな格好でやってきた。 ジャズのライブなら少しエレガントに装う事が多いだけに、 そんな気楽な格好でいいのね。 「のばら、あと10分だけ待ってて」 「庭で写真でも撮ってるからゆっくり準備していいわよ」 庭では、うららが好きな薔薇が咲き始めていた。 その薔薇の写真を撮るのも、のばらの楽しみのひとつだった。 うららが、真っ白なパンツスーツに、 コバルトブルーの大きなつばの帽子をかぶって庭に出てきた。 「のばら、こんな感じでいいかな?」 「うららが着るとどんな服でも、あんまりカジュアルな感じにならないけど、ま、いいんじゃない?」 ライブ会場は野外ステージだった。 何のイベントかわからないけれど、沢山の人たちが来ていた。 椅子を置いてあるスペースもあるし、芝生の上に座ってる人もいる。 「うらら、椅子と芝生とどっちがいい? あ、その白いパンツなら椅子の方がいいわよね。」 「こうゆうとこ、初めてだからのばらに任せるわ。」 ステージに近い座席が、ちょうど2席空いていた。 のばらが人を避けながらそこへ向かっていく。 同じ柄のTシャツを着たスタッフらしき人たちが、 機材の準備で忙しく動きまわっている。 活気と熱気に満ちた空気に包まれていて、いい雰囲気だ。 「何か飲み物を買ってくるから、ここに座って待ってて。」 そう言うと、のばらはどこかへ行ってしまった。 ひとり残されたうららは、ただぼんやりと椅子に座っていたら、 真っ赤なミニのワンピースを着た赤毛の派手な感じの女性が こちらに向かってやってきた。 「うららでしょ?」 うららはその女性が誰だかわからなかった.が、 「あたしよ。さくらよ。うららだってすぐにわかったわ。 他の誰ともちょっと違う雰囲気が漂ってるとこ、ちっとも変わらないわね。 今日は来てくれてありがとう!」 声を聴いて、さくらだとすぐにわかった。 「まぁ、さくら!今日はお声がけありがとう!さくらも全然変わらなくてよ。 どんなステージか楽しませていただくわね。」 「そんな改まった言い方よしてよ。同い年じゃないの。 ところで、のばらは?一緒に来たんじゃないの?」 「飲み物を買ってくるって言って、どこかへ行っちゃったのよ。 わたくし、こうゆうところ初めてだから、どうしたらいいのかわからなくて。」 さくらの肩越しから、のばらが缶ビールを2本持ってる姿が見えた。 「あ、のばらが戻ってきたわ。のばら~!こっちこっち!」 さくらが後ろを振り向いた。 「わ~さくら!元気そう!ステージ前なのに、こんな所にいてもいいの?」 のばらがうららにビールを渡しながら、さくらを気遣っていた。 「あなたたちを待ってたのよ。会いたかったし。 今日は来てくれてありがとう! 私の出番は2番目だから、ちょっと時間があるしね。 あ~私もビールが早く飲みたいわぁ~」 「LIVEが終わったら、飲みに行けないの?」 「うん、このイベントの打ち上げもあるから、今日は出れそうにないかなぁ。 でも今日は泊まるので、明日時間があったら一緒にご飯でもどう?」 のばらとうららが同時に返事をした。 「いいわね!」 「さすが、双子!いいハーモニーだったわ。じゃそろそろ楽屋に戻るわね。」 そういうと、さくらはステージ横の奥の方へ消えていった。 うららの姿が目立つのか、周りの視線を少し感じながら、缶ビールをうららに渡した。 「さくらのステージ、楽しみね。」 「ほんとね。」 ふたりは椅子に腰をおろして、ビールの缶を開けた。
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