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それではっとした女性が、押し通すなら今だとばかりに立ち上がる。
「大丈夫です! 安易じゃないです! 私が先生の作品を守りますから! だからせめて一度だけでも、主人公の声を担当したがっている声優さんに会ってくれませんか!?」
ずんずんと近付き、吐息が触れるくらいの至近距離で迫る女性を、先刻までの迫力など何処吹く風の、弱々しい手付きで押し戻しながら返す。
「あの。近いです」
「先生! お願いします!」
最早女性は説明に熱が入り過ぎて、樒の抗議が聞こえなくなってきているようだ。
「わ、分かりました。取り敢えず会いますから、一旦離れて下さい」
とうとう樒の方から折れる姿勢を見せた途端、女性が更に近付き手を取ると満面の笑みになった。
「先生ー! 樒先生! ありがとうございます! 絶対良いアニメにしましょうね! 私、頑張りますよ!」
――瞬間、樒から表情が消える。
「いや。まだアニメ化なんて認めてませんけど」
それは、今までにない低い声と冷たい表情であった……。
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