第一章・―声優? チャラ男じゃねぇか―

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 配役はと言えば、当然の事ながら関が主人公役で、樒は敵対する先輩騎士役だ。  これから二人が演じるのは、樒が書いているファンタジー小説のシリーズで、主人公と王国が最大の危機を迎えるシーンだ。  王国の騎士団長を勤める主人公が、長年国を空けてきた先輩騎士の帰還に、一時は喜ぶのだがそれは策略で、やがて裏切りに遭う。  主人公は一度は失脚し、今の地位を追われるのだが、それでも諦めずに奔走した結果、先輩騎士を窮地から救い出し、見事に事件を解決するエピソードがある。  今回はその際に二人がやり取りした、ファンの間で一番感動したと、称賛の声が高かった場面に絞ってアフレコする。 「俺がこのシリーズの中で一番好きなシーンだ」 「どうせ演るならここでしょう」 「はい! 頑張ります!」  一通り台本を読み終えた二人がマイクの前に立つ。  このシーンは、二人の台詞もだが、そこから滲み出る僅かな感情の変化や葛藤、憤りなどをきちんと表現しなければいけない。  それを文字で表現した樒も凄いが、声でも同じ事をしようという。
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