123人が本棚に入れています
本棚に追加
それだけで充分尊敬出来る。最早多才という言葉すら樒には勿体ないのではないかと、マイクの前でちらちらと目線を遣る。
「いつでも良いですよ」
「あ、はい」
それを違う事に取ったのか、普通に先を促す樒に関の覚悟も決まる。
台本通りにいけば、まずは関が、全てを知った主人公に赦され、項垂れる先輩騎士にかける台詞から始まる。
自分の出来次第で、樒が帰ってしまうか否かが決まるかも知れない。
心してかかろうと、大きく息を吸い目をとじた。
「……顔を上げて下さい。スコール、私は貴方の帰りを、ずっと待っていたのです」
「何故だ。俺は、……お前を裏切った身だ」
渾身の思いを込めて発する関の耳に、先刻まで聞こえていた高めの声ではなく、低く、そして渋い呻きが届く。
子供の頃に、学生の頃に目を輝かせ聴いていた、智也の甘いボイスそのものだ。
「貴方は裏切ってなどいない。誰も悪くはない。悪いのは、貴方の家族を人質に、良いように操ろうとした連中です」
驚きはしたが、いつまでも聞き惚れてばかりいられないと、次の台詞を発する。
最初のコメントを投稿しよう!