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「スコール、私は貴方を恨んでなどいない」
「……っ!」
隣で樒が息を呑む音が聞こえる。
僅かな感情の変化だ。
画面には小説の挿し絵しかないのだが、迫真の演技により今にもアニメとして動き出しそうな錯覚さえあるのだ。
「俺は……!」
言葉にならない先輩騎士の台詞には、内に秘められた感情や葛藤、そして悲しみを言外に語っているようだった。
樒は普通にしているのだろうが、聞く度に何度も何度も、声に惹かれて持っていかれそうになる。
関自身が台詞を発するのを忘れそうになりながらも、二人の演技は続いていく。
本番さながらの収録で、何度も録り直したり、聴いて不満のある箇所を再収録したりして、ようやくの事で納得のいくものが仕上がった時には、すっかり日も暮れて夜に差しかかっていた。
全て終わった瞬間、樒の凄さに圧倒され、関はその場にへたり込んでしまう。
腰が抜けた訳ではないのだが、久し振りに力を入れ過ぎて脱力してしまったのだ。
「大丈夫ですか、関さん?」
椿が慌てて走り寄り、しゃがみ込む関を支えようとする。
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