123人が本棚に入れています
本棚に追加
――某有名出版社にて、担当編集の女性に連れてこられた樒は、編集部特有の喧騒に顔をしかめていた。
趣味は散歩、ジョギングで、適度に身体も鍛えている樒だったが、だからといって人付き合いが得意という訳でもなく、むしろコミュ障に近い。
好きな場所は自宅の書庫。好きな時間は自宅の書庫で過ごす、静かな一時の樒である。
煩い場所にはあまり長居したくない。
「先生、こちらですよ」
「あ、はい」
どうやら女性は、いつも案内する編集部の隅にある、応接セットが設置された場所ではなく、個室に近い会議室へ通そうとしているようだ。
迷路みたいな廊下を通り抜け、やがて第一会議室とプレートが下がった部屋へと辿り着いた。
「ここで待ってますから」
満面の笑みで女性が言うのに、何のリアクションもなくドアノブを掴み開ける樒は、そのまま中へ入ってしまった。
「先生、リアクション下さいよ!」
後に続く女性が、すぐに何かにぶつかってしまう。
「わっぷ!」
「……」
出入口すぐのところで、樒の背中にぶつかったのだ。
最初のコメントを投稿しよう!