第一章・―声優? チャラ男じゃねぇか―

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 ――某有名出版社にて、担当編集の女性に連れてこられた樒は、編集部特有の喧騒に顔をしかめていた。  趣味は散歩、ジョギングで、適度に身体も鍛えている樒だったが、だからといって人付き合いが得意という訳でもなく、むしろコミュ障に近い。  好きな場所は自宅の書庫。好きな時間は自宅の書庫で過ごす、静かな一時の樒である。  煩い場所にはあまり長居したくない。 「先生、こちらですよ」 「あ、はい」  どうやら女性は、いつも案内する編集部の隅にある、応接セットが設置された場所ではなく、個室に近い会議室へ通そうとしているようだ。  迷路みたいな廊下を通り抜け、やがて第一会議室とプレートが下がった部屋へと辿り着いた。 「ここで待ってますから」  満面の笑みで女性が言うのに、何のリアクションもなくドアノブを掴み開ける樒は、そのまま中へ入ってしまった。 「先生、リアクション下さいよ!」  後に続く女性が、すぐに何かにぶつかってしまう。 「わっぷ!」 「……」  出入口すぐのところで、樒の背中にぶつかったのだ。
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