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「先生、立ち止まらないで下さいよ」
「済みません。あれは誰ですか」
済みませんと言われたからには、すぐさま謝ってもらえたのだと思ったのも束の間、違うのだと気付いて樒が示す方を見る。
会議室には長いテーブルと、いくつもの椅子が設置されているのだが、一番奥に座っている男性を指しているようだ。
茶髪にピアス、柄物Tシャツの上からスカジャンを羽織り、濃紺のダメージジーンズを履いた、いかにもなチャラ男だったのだ。
チャラ男は入ってきた樒に気付いたのか、きらきらと瞳を輝かせながらこちらを見詰めている。
「あの方がオファーをくださった方ですよ。今をときめく、大人気声優の関俊雄さんです」
「そうですか」
渾身の力を込めて紹介したのだが、残念ながら興味の欠片も沸かなかったようだ。
返事はそれだけで、一向にそこから動こうとはしない。
「樒久成先生ですか!? 俺、関俊雄って言います! ずっと大ファンでした! サイン下さい!」
「……声優? チャラ男じゃねぇか」
返事の代わりに呟いたのは、実に物騒な台詞であった。
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