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「ぬくみちゃんにとって特別なんだ。ドーナツを食べたあと、毎日忙しいお母さんと週に1回、唯一ゆっくりできる時間だった」
「……そう、そうなの」
桜くんの言葉に、ぬくみちゃんのお母さんは涙を堪えながら、私に目を向ける。
「ドーナツの日はいつ? って、帰ったその日から、毎日聞くの」
お母さんの言葉を聞きながら私も、いつだったかのぬくみちゃんを思い出す。
「いつも、エンゼルクリームでしたよね」
「そうそう、ヤミーのクリームが大好きで」
「手も顔も、いつもクリームだらけでした」
少し口角を上げた私を見て、ぬくみちゃんのお母さんの口角も「そうそう」、上がる。
「クリームのついた手で……いつも私の顔を、触るから……」
そこまで言ったあと、一気にぽろぽろと涙を落としながら、私に寄りかかる。
私は、少し背の低いぬくみちゃんのお母さんの小さな肩に手を回す。
毎日毎日、ぬくみちゃんのために頑張って。
大切な時間の一コマを、ヤミーで過ごしてくれたんだ。
そう考えると、何だかすごく切なくなる。
なのに、そんな2人の大事な時間が、存在自体が、無駄になっちゃうとか……。
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