ACT 1

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風音は「いいですよ、上がって。お疲れ様です」と言ってレジに入ってくれた。 なのでそのまま「いらっしゃいませ」、声を掛けて通り過ぎようとしたんだけど。 目が合って思わず「あ、ぬくみちゃんのお母さん」、声が出てしまう。 ぬくみちゃんのお母さんは少し驚いた顔をしながらも「花江さん」、笑顔を返してくれた。 でも少し元気のない笑顔。と言うか。 「今日は、ぬくみちゃん、いないんですか?」 何気なく聞いたコトだったのだけど。 「あ、はい、まあ」 すごく困ったように目を逸らされてしまった。 2ヶ月くらい前までは、ぬくみちゃんという5歳の娘さんと一緒に週末の午前中、よくドーナツを食べに来ていたのだけど。 最近見かけないなと思っていたところに、顔を見たので思わず声をかけてしまった。 でもあまり、聞かれたくなさそうに見える。 「すいません。ゆっくりドーナツ選んでください」 私は笑顔で話を切り上げると、軽く頭を下げてバックヤードへと下がった。
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