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「2人で出かけたい!」
オープニングセールスとしての業務を一通りこなしたあと、ベーカーエリアで1人、黙々とドーナツを作っている松瀬くんの隣に並ぶ。
耳まで隠れる衛生帽にマスクをつけている松瀬くんの表情は、全く伺えない。
でも丸眼鏡の向こうから黒い瞳がちらり、こちらに流れた。
「今日は挨拶してくれないのか?」
静かな声に、私はムッと口をへし曲げたあと言葉を繋げる。
「おはよう松瀬くん、2人で出かけたい! 動物園とか水族館とか、映画とか公園とか一緒に行きたい! 2人で行きたい!」
すっごく言ったのに。
「おはよう、芽愛里。今はまだ時間が取れない」
再び静かに返されて「どうして」って、松瀬くんの腕を掴んでしまう。
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