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ほんの一秒の逡巡すら、なかった。
その僅かなやり取りに、ベトは説得の無意味を悟った。
目を、逸らす。
睨みあい――この場合は違ったが――で先に目を逸らしたのは、初めてのことだった。
「あんた……死ぬかも、知れねぇぞ?」
「はい」
「……いいのか、それでも?」
「命、かけてますから」
なんでそこで笑えるのか?
「――――っ、……、――――!」
なにか言うべきなのだが、何ひとつ口から言葉が出てきてくれなかった。
なまじ状況が、彼女の性格が、覚悟が、気持ちがわかってしまうから、もうこれが詰みだとわかってしまう。
理屈では、もう行かせるしかないだろう。
せいぜい幸運を祈る、ぐらいの言葉をつけて。
死地に赴く、戦友に対してのように。
「――――――――あーッ!!」
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