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その姿を、まともに見ていられる者はいなかった。
ほとんどが顔を背け、鼻をつまみ目頭を押さえ、涙をこらえている。
短い付き合いだったが、彼女の献身的な姿勢はみなの心を捉えていた。
その根底にあるのは、命をすら投げ出すような自己犠牲の精神だった。
「どうしても――と聞きたいけど、もう言わないわ。貴女の心は、もう決まってるから。レックスももう、いいわね?」
マテロフが優しく尋ねると、既にレックスは後ろに下がって両腕で顔を覆い隠していた。
激情屋なのは、素直の裏返しだった。
今まで散々裏切られてきたから、希望が持てるものに対しては疑ってかからないと、精神が持たなかったから。
ここはそんな男たちで、溢れていた。
「でも、どうか覚えておいて。私は――私たちは、貴女のことを覚えてる。信じてる。だからそんな……死んでるだなんて、思わないで」
言って、マテロフはアレの手を強く握った。
両手で思いのたけを込めて。
どうか届いて欲しいと、そんな願いを込めて。
アレはそれにただ――いつのように笑って、
「ありがとうございます。わたしもみなさんのこと、覚えてます。だからどうか、みなさんお元気で」
最初と同じ言葉を、紡いだ。
「別れの挨拶は、済んだか?」
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