母と宇宙船

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母と宇宙船

 搭乗までのあと30分がたまらなく長く感じる。  売店まで行ってくると告げ、母と一緒の搭乗口から離れた。 売店ではステーション限定の宇宙食が並ぶ。期限のわからない旅には何が必要なんだろう。僕なら甘いものが食べたい。最近発売したばかりの宇宙用のゴディバは明治のチョコより8倍高い。何を買ってもさして喜ばない母へ明治のチョコを買う。 「New World Space Pieces Discovery 新居住地探索プロジェクト」  えらく格好良い名前のプロジェクトに母は応募した。遠くない未来、宇宙に移り住むためのデータ集めに、いよいよ人体が必要になった。特に体力的に劣る高齢者のデータが必要になり、有人宇宙船の本格運用の前に7つある宇宙ステーションを回り、新居住地の最前線基地へデータを取りながら向かう。いつ戻ってくるのか決まっていない無期限のプロジェクトだ。宇宙船内は豪華で贅沢な生活が保障されていて、身寄りのない老人たちは喜んで参加を希望した。地球というか、僕に愛想を尽かした母もその類と言える。    
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