母と宇宙船

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 気の効いたものを買うと「これ幾らした?持って帰る?」と聞いてくる母。僕は気が利かないものを選ぶようになった。  ある時、三笠を買ってきてと言われコンビニで高めのどら焼を買ったが、これじゃないと言われた。少しの気遣いも裏目が多い。宇宙船では食べ物も豊富とは思うが、気を利かせて追加で甘いもの「スペーススイーツ今川焼き」を買った。要らないと言われたら自分で食べたいものを選んだ。レジ前にはいろんなフレーバーが付いた酸素缶が並んでいる。宇宙にまで来て「森林の薫り」とは。森林が好きなら地球にいた方が良いだろうに。  期限の無い旅でも必要なものは船内で提供される。それでも売店のお菓子が売れるのは、地球を思い出すためなのか。月日が経てば(宇宙でも月日と言うのか?)忘れたくない、忘れて欲しくない思いがお菓子に投影される。供物のように持たせる宇宙食。今回の宇宙船はお墓に似てるのかも知れない。いつ戻るかわからない母への餞別はゴディバにすれば良かったかも。  会計を済まし窓の外の滑走路を眺めた。このまま見送りを放棄し、家に帰っても、多分何も変わらない。宇宙船も母も僕がいようがいまいがお構いなしに発射する。では帰ってもいいのか、考えれば考えるほど搭乗口に重い足が向く。やりたくない義務のよう。母は今、何を思っているだろか。     
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