母と宇宙船

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 宇宙へは母が自分で行くと言った。今僕が義務のような見送りを放棄したとしても、母にはその責任を全うしてもらうしかない。僕は止めなかっただけで、本人が望んで決めたのだ。息子としては宇宙行きを止めた方が家族らしい気もする。でも本人の希望なんだ、むしろ突飛な希望を受け入れる寛容な息子なんだ。そう思えば罪悪感を棚上げできる気がした。  搭乗口前のソファーに座る母の姿が見えた。戻る足が重い。それでも急いでるふりがしたくて、少しだけ速足で戻る。全面が窓ガラスの外、宇宙船が見える。僕が乗るわけでもないのにドキドキしている。なんの高揚感だ。母の隣に座った。 「甘いもの、買ってきたよ」  白いビニール袋をそのまま差し出す。 「あら、良かったのに。ありがとう」  中身を見もしないで「スペースフード今川焼き」は手持ちのカバンにしまわれた。続く会話がでない。宇宙船への募集を母に勧めたのは僕だ。 「グレープフルーツの酸素もあったけど、そっちの方が良かったかな?」 「ううん、大丈夫」  恐らく本当に大丈夫なんだと思う。グレープフルーツの酸素缶はどのくらいの時間、楽しむことが出来るのか。長旅を思えばわずかなものだ。機内食は飽きさせない努力をそれなりにはしているだろう。金曜日だけ提供される海軍カレーくらいには。それだって毎日の栄養補給には飽きがくる。     
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