母と宇宙船

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 宇宙を勧めたのは僕だ。だけどそれを決めたのは母なのだ。 「さっきのお菓子だけど、今川焼きだよ。どら焼きはなくってさ。ゴディバじゃないけどチョコレートも入ってる」 「そういうの機内でも出るのよ」 「僕もたまに食べてみるよ、宇宙食」 「美味しいもの、食べなさいよ」  母は時計を見てから、見送りありがと、とソファを立った。旅路を推し進めているようでもあり、母のカバンは持ってあげることが出来なかった。でも、やっぱりそれも大丈夫なんじゃないかと思った。ヘラヘラしてるって思われるかも知れないが、笑顔で見送ろうと思った。それしか出来ないと思った。息苦しく言葉が出ない。 「それじゃ、行くから」  言葉が出たのは母だった。僕は手を差し出した。軽く握られた手がさっと離れていく。僕は母の目を見て頷いた。「元気でね」の形に唇を動かした。空気が漏れる音だけしか出せなかった。  母が宇宙へ行く。母から借りたお金の返済は帰って来たらしようと思った。
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