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 叔父は世間に名の知れた写真家だ。  大胆な構図、あるいは繊細な空気の捉え方。  評価されるのも当然という写真を叔父は撮る。でも、叔父が心底から満足する写真を撮れてないことを俺は知っている。  数多の写真の中に、時々ぼんやりと見える人影。  一番はっきりした時に、それは女の人に見えた。  心霊写真という言葉が当たり前になっていたので、もしやこれもその類かと思い、俺は叔父に尋ねてみた。でも、返事はまったく違うものだった。 「ダメな写真だよな。彼女の姿がぼやけてて、誰が見ただってダメだと判る。…彼女を撮ろうとするといつもこうなっちまうんだ。でもいつか必ず、とびきり綺麗な彼女の写真を俺は撮るからな!」  誰に見せても風景写真としか言われない。でも叔父の眼には、いつもそこにたたずむ『彼女』が見えているのだろう。  それが何であるのか、想像するとにこにこしてはいられないけれど、それでも叔父が望むなら、この写真の女性には、是非ともまともにファインダーに収まってあげてほしい。  現像された写真を見るたび落胆しているあの叔父を見ていると、どうしようもなくそう思う。 写真…完
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