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記録士ソフィーに与えられた仕事は、爆弾作成の作業員の記録であった。
記録士というのは国家資格で、その名の通り物事を取材し、記録し、公式文書にする職業である。
今回の依頼主は政府。この度新しく開発する爆弾、今の時代はミサイルと言った方が正しいのかもしれないが、そういうものを作る作業員の身元についてまとめよ、というものだった。
命を受けたソフィーはさっそく開発本部へと出向き、最高責任者の承諾を通して、整備室に密着する事を許された。
その中で働いていたのは、何の権力も持たない、一般企業から派遣された男たちであった。彼らの仕事はごく単純で、来る日も来る日も発射装置の整備、やがて完成したあかつきにやってくる、試験発射のための土台に過ぎなかった。
ソフィーはまず彼らの仕事ぶりを詳細に観察、記録した。
やはり装置の整備、作業場の掃除、それに伴う書類作成等と何の見栄えもない。一緒に依頼された他の記録士の話では、研究室に派遣された者は最新の現場や機械を見る事が出来たり、広報室を担当した者は記録士として広報の人間と一緒に世界を飛んでいるという。
ソフィー自身、そこに何の不満を持っている訳ではないが、研究や広報などといった華やかな仕事がある半面、ひたすら整備に徹する作業とが一つの機関にまとまっている事に、不思議さを感じていた。
まるで開発局そのものが、世界の仕組みを凝縮していたようだった。
その世界が今、戦争の火種になるかもしれないものを作っている。
はじめは、整備の男たちもソフィーの事を「政府から来たエリート」と見なして冷たくあしらっていたが、彼らの後ろにくっついて黙々と作業や職場の様子を記録する姿に対して、皆徐々に心を開いていった。
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