Prologue

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ノースブルック伯爵の妹・レイチェルがこの世を去ったのは、夏も終わりに向かい始める季節だった。 ほとんど人前に姿を現すことがなかった深窓(しんそう)の令嬢。その早すぎる死に、誰もが心を痛めた。 「亡くなった娘の姿を誰の目にも触れさせたくない」という母親の訴えにより、(ひつぎ)は固く閉じられている。そのあまりに軽い棺桶に、運び手は深い憐憫(れんびん)の情を抱いたのだった。 「まだ、十七歳でしたのよ」 「とても可愛らしいお嬢様でしたのに……」 墓地の周りでは、あちらこちらから嗚咽(おえつ)や鼻をすする音が聞こえる。 彼女の母であるレディ・ノースブルックは、黒いベールの奥でハシバミ色の瞳を揺らしている。そんな母の肩を抱き、若き伯爵は静かにつぶやいた。 ──レイチェルは神の御許(みもと)へ。
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