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「手掛かりって、ほんまにこれだけなん?」
「残念ながら」
「特徴とか、どこに住んでるとか、何か手掛かりになりそうなもん覚えてへんの?」
「特徴かぁ。そうだな。髪は野上より少し長め。背格好は大体似てる・・・かな」
「言っちゃ悪いけど、そんなん世の中五万とおるって」
「・・・確かに」
「あら、失礼ね」
軽口にはわざと気取って軽口を返す。二人はどちらからともなく笑い合っていた。
「写真の中で笑ってるのは『あきひこ』って人なんだ。俺の探してる人が世界中で一番大好きで、誰よりも何よりも大切にしていた人だった。おかしな話かもしれないけど、聞いたのはほんとにそれだけ。俺はほかには何も、彼女の名前すら知らない」
憶えているのは――今でも忘れられないのは、彼女の声。その名を呟いた時の、彼との思い出を語った時の、とても綺麗で澄んだやさしい声。彼女の言葉には、体中から込み上げる彼への想いが溢れていた。
そして、そんな彼女の姿を思い描く智雪の瞳の色にも声音にも、想う気持ちが同じだけ滲むように現れていたのだろう。野上はホウッと、深い吐息を吐いた。
「ね、そんなに会いたい?」
「これは大事な預かり物だからね。返すって約束したんだ」
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