Ⅰ 雑踏

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 そう言って、返された写真をまた大事そうに手帳の中へとしまい込む。 「彼女の方では、とっくに忘れてたりなんかして」 「うん。そういうこともあるだろうな」 「もしこのまま会われへんかったら?これから先もずうっ・・・と」 「そうだな。どうしようか」  重ねた意地悪な質問にも、笑みが消えない。分かっていたことだとは言え、またひとつ吐息が唇からこぼれそうになる。  何のことはない。一点の曇りもなく信じているのだ、智雪は。いつか必ず、彼女と再び出会えることを。  ・・・負けたな。  そう思うと正直悔しい気はする。少しだけ胸がせつなく痛むのは、野上としては結構本気で、智雪のことを気に入っていたりしたからだった。  できるなら友人としてではなく、一人の女として見てほしかった。ささやかな願望は、絶対に口に出さない。言う前から完敗だった相手に伝えたりしない。こんないい女を袖にするなんて絶対絶対大損なのに!――なんて。     
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