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出会ってからずっと、彼氏もつくらず一人身でいた。もてるのにと不思議がられても、お互い様と切り返した。そうして一緒にいられれば、いつか気が付いてくれるんじゃないか。自分を見てくれるんじゃないか。・・・そばにいて智雪の気持ちの強さを知りながら、いや、だからこそ尚、いつか――と残酷な淡い期待を止められなかった。どれだけ待っても、時間がかかってもいい。智雪に振り向いてほしかった。
何人もの女の子の、失恋や片恋の辛さに流された苦い涙を受け止めた。彼女達にやがて訪れるだろう自分自身の姿をも重ねていた。
それなのに自分でもらしくない程引きずっていたのは、そっとあたため続けた気持ちがどうしようもなく愛しかったからだ。できることなら今のまま、ずっとずっと大切に抱きしめていたかった。おかげで今日までここへは確かめに来られなかった。信じて待ち続ける、智雪の姿を目の当たりにするのが怖かった。
ふっ・・・と、前へと流れ落ちた髪を耳にかけようとした仕草の中、頬を掠めた指先が思い起こさせる。瞼の裏に白い花びらが降る。
――あんたなんかに何が分かるんよ!
春、遅咲きの桜の下で、坂野の頬を打った。力任せの平手打ちは、坂野が逃げもせず真っ向から受け止めたせいもあって、随分と小気味いい音がした。文句一つ言わなかったけれど、あれは相当痛かった筈だ。
思わず手が出た理由なら簡単だ。ためらいながらも突然ズバリと、智雪への気持ちを言い当てられた。
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