20人が本棚に入れています
本棚に追加
駅でばったり顔を合わせて連れ立っていただけの、お調子者だが気の合う友人。たわいのない会話の中での、まさかと予想もしていなかった相手からの、殆ど不意打ち的な攻撃だった。
うまくかわして立ち回ることができればよかったのに、坂野の真っ正直な問いかけに不覚にもついカッとなって、惜しむように桜を見上げていた周囲の人目もはばからず、大喧嘩になってしまった。最後には随分低次元の言い争いもしたように思う。ただ、泣き出してそれ以上の醜態を晒したりしないよう、必死に歯を食いしばっていたことだけ覚えている。後に噂を聞き付け、何事かとやって来てくれた友人達への言い訳がまた大変だった。
思えばあれは完璧な八つ当たりで、坂野にはひどいことをしたと反省も後悔もしている。あの日のことをまだ謝っていない。お礼すら言えないままでいる。
きっと、口にするよりもずっと前から、坂野は心配してくれていた。隠し事が下手な奴だから、それきり二度と話を蒸し返すことはなかったけれど、気遣うような視線がいつも自分に向けられていたことになら気付いていた。だから『辛い』なんて顔は絶対に見せなかった。弱い自分を隠していられた。
普段は鈍くて、実は泣かせた女の子だって結構いることを知っているけれど、相思相愛なだけのことはあって、智雪のこととなると本当によく見ているものだ。
最初のコメントを投稿しよう!