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今度こそ、坂野には逃げずにちゃんと報告しようと思っている。やっと気持ちの整理がついたと、できれば自然に無理なく笑えるといい。ついでに冗談めかして、もうひとつ隠していた秘密を告白してみようか。
智雪が想う見知らぬ誰かでもほかの誰でもない、私は――智雪にとってのあんたみたいな存在になりたかったよ、と。
坂野はどんな顔をするだろう。言葉の意味なんて分からず、困惑してただ首を傾げるだけだろうか。
智雪への気持ちを、すぐに忘れられるかどうかは分からない。一人になったら、少しは泣いたりしてしまうかもしれない。辛い時には――どうせ乗りかかった船なのだから、坂野と、瞳ちゃんにも付き合ってもらって、朝まで飲み明かそう。それとも変に気を利かせて、今も上の階で待ってくれている友人達が先か。オチとしてあまり笑えた話ではないけれど、うまく隠していたつもりで、近くで見ていれば案外バレバレの恋だったのかもしれない。たった一人の相手しか見えていない、智雪以外には。
「ん・・・?」
野上の瞳が無言のまま自分を見つめてくるのに、智雪はウーロン茶の氷をかきまぜながら心持ち首を傾ける。そんな風に時折見せる子供っぽい仕草も好きだった。
叶うことのなかった恋だったけれど、これでまた一回りいい女になったことだけは確かだから、智雪に負けないいい男を、――今度こそは、どこかにいる自分だけを待っている人を探そう。
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