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――働いてばっかりやね。
別れ際、そろそろ行くよと腰を浮かせた智雪に野上が言った。そんなに稼いで・・・探偵でも雇う気?、と。
答えて智雪は、店長にも頼りにされてるから真面目なバイト君としてはおちおち休みも取れやしない、と笑った。探偵は名案だ、とも。
――嘘ばっかり。他人にまかせる気なんてさらっさらない癖に。
すると野上は大袈裟にため息をついてみせたが、その人のことを、捜そうと思って捜し始めたのではなかった。ただ、忘れられなかった。会いたいと思った。もう一度会いたくて、気が付くと人込みの中、瞳に胸に、智雪のすべてに強く灼き付いている面影を追う自分を見つけた。
写真を手に、自ら他人にまで働きかけるようになったのは、大学に入ってからのことだった。一人で捜すことの無力さに焦れていた訳じゃない。自分の気持ちに正直に従った結果だった。
いろんな場所からいろんな人が集まるのだから、もしかしたら情報も集まる。淡い期待は、なかなか実を結んではくれない。訝しがられ、なかなか信じてもらえないこともあった。それでも力になると言ってくれる友人がたくさんいて、それが嬉しかった。
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