Ⅰ 雑踏

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 きっと、高校から一緒の坂野の影響も大きいのだろう――とは、智雪自身が分析する。  坂野とは高校に入学してすぐ知り合った。偶然クラスが同じで、席も隣。同じ中学からの進学組が少なくて、クラスの中で一人あぶれていると、気さくに声をかけてきてくれた。それが坂野だった。  実際には坂野も似たような境遇にあったのに、めちゃくちゃな人懐こさで、クラスに馴染むのもあっという間の早業だった。持ち前の明るさと物怖じしない性格で、誰とでもすぐ仲良くなった。  ただ、小さな衝突や喧嘩も異様に多かったことは特筆に値する。取っ組み合いになるまで発展することこそ少なかったが、とにかく口が悪い。決して悪意がある訳ではないのだが、坂野は思ったことがそのまま口から出てしまうタイプだった。  正直で裏表がないというのは、確かに素晴らしい美点だ。けれど、坂野の場合は同時に大きな欠点でもあった。本人があっけらかんとした大らかな気性で後には引きずらない為、揉め事が多い割には敵も少なく、意外な人気を保っていたことだけが救いと言えば唯一の救いだった。     
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