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「前に坂野から聞いたんやけど。・・・智雪ってバイト行く前、大抵ここ寄るって。必ず二階の窓際の席」
どこか含みのある言葉に、智雪は全く的外れなことを考えた。
思い当たる節はないのだけれど、ということは、偶然でなくわざわざ寄ってくれたのだろうか。
「何か急用だった?」
ふわりと、ほころぶようなお決まりの笑顔が問いかける。その様は着ていたアイボリーのセーターによく映えて、こんな風に綺麗に微笑む人を知らないと野上は思う。
同時に、その表情が奇妙に・・・微妙に変わった。意気込んでいた気持ちがしぼむように、前に乗り出していた肩が下がる。野上は、ちょっと怒ったみたいに乱暴に言い捨てた。
「ある訳ないやろ、別に。ご覧の通り、これから京子達とご飯食べに行くんやけど、佑実が遅れてるから待ってるだけ」
智雪の方では、野上の機嫌が悪くなったこともその理由も、あまり・・・と言うか殆ど分かっていない。スパッと言い切ってくれるあたりがらしいな――なんてことを、相変わらずのんびりと考えている。
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