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そんなものを後生大事に持ち歩いているせいで、一時はゲイ説まで浮上した。噂はやっかみ半分の中傷みたいなものですぐに消えた。智雪の言葉に嘘がないことは、そばにいて見ていれば分かることなのだ。
――彼女は真っすぐな長い髪と綺麗な瞳をしていて、何より澄んだ声が印象的で、とてもやさしい言葉で語る人なんだ。
少し照れ臭そうに、でも自慢げにその人の話をする時、智雪の柔和な瞳はさらに和む。いつもやさしく穏やかに話すけれど、いつもとはその声音が違う。込められた想いが違う。違うとはっきり感じ取ることができる。
智雪は知り合いという知り合いに情報を募り、どんなに些細でもいい、その人に繋がる糸を懸命に手繰り寄せようとしていた。茶化す相手もいただろう。嫌な想いだってきっとしてきた筈だ。けれど、幾度問われても、何をどんな風に言われても、繰り返し根気よく話をし、心当たりがないか問いかけていた。それこそ、相手の方が圧倒される誠実さでもって。
残念ながら、手掛かりがあまりにも少なすぎて、今のところ成果はまったく上がっていない。それでも諦めることもめげることもなく、ずっとその人を捜し続けている。
――もう一度会いたい・・・!
智雪が体いっぱいで叫んでいる声が聞こえてくるようだった。
だから誰もが考えた。――これは一目惚れしたんだな、と。
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