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Ⅰ 雑踏
いつ見ても人の多い街だと思う。
目の前にある四車線の道路を挟んだ向かい側は駅のターミナルビル。すぐ近くに繁華街とオフィス街があり、私鉄と地下鉄が交差して走り、乗り換えにも便利なこの駅の界隈は、平日・休日・昼夜を問わず、一年三百六十五日、いつでも人で溢れかえっている。
横断歩道の信号が赤から青へ変わった。車の流れに堰き止められていた人の波がゆるやかに流れ出す。歩くと上下する人の頭の群れが不規則に蠢く、そびえ立つビルの谷間にそんな光景がどこまでも続いて見える――ここは、ごちゃごちゃと繁雑で不思議な熱気を伴った街。
それでも、確かにその中には、智雪にとってかけがえのない宝物が、ずっと捜し続けている大切な大切なものがある筈なのだ。
智雪が今いるのは駅の真向かい、横断歩道から真っすぐ延びる地下鉄の駅二つ分続く長い商店街の入り口にあるファーストフード店の二階。通りに面した壁一面がガラス張りになっていて、足元を行き交う人々の姿を見渡せる窓際の席は、三日とあけずに通っている彼のお気に入りの指定席だった。
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