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「違うんですか?」
唯衣子が泣き出しそうな顔をする。
「何か大切な願いごとがあるのね、」
晶良さんがやさしく訊ねる。はい、と、唯衣子は頷く。それから躊躇するように晶良さんと鉄太さんを見て、
「私、ケーキを嫌いになりたいんです」
「どうして、」
「ごめんなさい、お二人の前でこんなことを云って」
「ううん、そんなこと気にしないで。でも、どうして。どうしてわざわざ好きなものを嫌いになりたいの?」
「怖いんです。私、本当にケーキが大好きなんです」
「それは、不可ないことなの?」
「駄目なんです。私、ケーキを食べ出すと、もう、止まらなくなっちゃうんです。一切れ食べると、食べ終えた瞬間からまた新しいのが食べたくなって、お店に走ってしまうんです。それで、今度は大量に買って来て、一気に食べてしまうんです」
増え過ぎてしまった体重に、一念発起して、ケーキを我慢して、痩せた。でも痩せてもケーキへの渇望は止まらない。ううん、むしろ以前よりももっと大きくなってしまった。痩せたから、一切れくらい食べてももう大丈夫だろうと、つい、ケーキを買ってしまった。それがいけなかった。ケーキへの欲望に、生活が飲み込まれていった。
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