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温室と云っても名前ばかりで、観葉植物の鉢が二つ置いてあるだけである。だがそのひとつが、透明な壁や天井に良く蔦を這わせているのは、結構神秘的であった。廊下からスリッパで入れる床の下には、緑の芝が硝子越しに見えるのも素敵だ。新しい鉢かプランターに花を植えたら、もっと麗しくなるかも識れない。そうして、一角獣を棲まわせたらどうだろう。せあらは空想に耽った。
「せあら君、ご飯」
ぼんやりとしているせあらに、悠宇君が声をかける。すでに自宅から持ってきた弁当の蓋を開けて、食べる気満々である。せあらも商店街の総菜屋で買っていた弁当を、急いでテーブルに準備した。悠宇君はせあらの弁当をさっと見て、
「おいしそう」
と、云った。あまりじとじと見るのは失礼だと思ったのだろう。
せあらは悠宇君のご飯の上に、自分の弁当の生姜焼きをのっけた。
「こ、」
交換。
悠宇君は歯を覗かせて笑った。
「交換だね」
云って、せあらのご飯の上に、鶏の照り焼きをのせた。
悠宇君は母親と二人きりで暮らしている。母親の仕事が遅いので、良くこうしてせあらと一緒に夕飯を取る。誰かと一緒じゃないと、ご飯がおいしくないのだと云う。
「おいしいね」
悠宇君はにこにことして、せあらの呉れた生姜焼きを頬張る。いつも二人は互いのお菜を交換して、食べるのだった。
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