1:ケーキ! ケーキ! ケーキ!

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 温室と云っても名前ばかりで、観葉植物の鉢が二つ置いてあるだけである。だがそのひとつが、透明な壁や天井に良く(つた)を這わせているのは、結構神秘的であった。廊下からスリッパで入れる床の下には、緑の芝が硝子(ガラス)越しに見えるのも素敵だ。新しい鉢かプランターに花を植えたら、もっと麗しくなるかも識れない。そうして、一角獣を棲まわせたらどうだろう。せあらは空想に耽った。 「せあら君、ご飯」  ぼんやりとしているせあらに、悠宇君が声をかける。すでに自宅から持ってきた弁当の蓋を開けて、食べる気満々である。せあらも商店街の総菜屋で買っていた弁当を、急いでテーブルに準備した。悠宇君はせあらの弁当をさっと見て、 「おいしそう」  と、云った。あまりじとじと見るのは失礼だと思ったのだろう。  せあらは悠宇君のご飯の上に、自分の弁当の生姜焼きをのっけた。 「こ、」  交換。  悠宇君は歯を覗かせて笑った。 「交換だね」  云って、せあらのご飯の上に、鶏の照り焼きをのせた。  悠宇君は母親と二人きりで暮らしている。母親の仕事が遅いので、良くこうしてせあらと一緒に夕飯を取る。誰かと一緒じゃないと、ご飯がおいしくないのだと云う。 「おいしいね」  悠宇君はにこにことして、せあらの()れた生姜焼きを頬張る。いつも二人は互いのお(かず)を交換して、食べるのだった。
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