4:本の捨て子

49/55

141人が本棚に入れています
本棚に追加
/228ページ
「ご迷惑をおかけしてすみませんでした。お騒がせしました」  母親は立ち上がり、せあらたちに深々と頭を下げて謝った。 「いえ、こちらこそ、もっと早くにご連絡すれば良かったですね。申し訳ありませんでした」  鉄太さんが云い、晶良さんも、せあらも、頭を下げる。 「此処にずっといたのかい、」  警察官の質問に、柚原少年は、「うん、ずっといた」と、答える。「此処の二階で、本を読んでた」 「本に夢中で、時間なんて忘れちゃっていたんでしょう。この子、よくあるんですよ。識らない間に夜更かしして、学校に遅刻したりして。あんまり本を読みすぎると、目も悪くなるんじゃないかと心配だし、困っちゃいます」  母親は苦笑する。しかし、怒っている感じではなかった。 「さ、帰ろう。お父さんとお兄ちゃんが家で待ってるから。せっかく試合の帰りに、ルナの好きなアイスクリームを食べようって買ってきたのに、ルナいないんだもの。お兄ちゃん、晩ご飯も食べずにルナのこと心配してたんだよ。お腹を空かせて待ってるよ」  柚原少年はせあらたちの方を見上げた。せあらも、鉄太さん夫婦も、彼に頷いてみせた。少年は安心したように、母親の手を握った。  母親が図書館の利用料金を払い、親子は帰っていった。
/228ページ

最初のコメントを投稿しよう!

141人が本棚に入れています
本棚に追加